新たな門出を「シャンパン」で祝うのはなぜ?注目の製法「ノン・ドザージュ」から紐解く

今回は、シャンパーニュの伝統的な製法と、より現代的な味わいを実現したといわれる「ノン・ドザージュ」についてご紹介します。
出荷前の最後のひと手間、「門出のリキュール」とは?

シャンパーニュの製法は「トラディショナル方式」と呼ばれ、数種類あるスパークリングワインの製法のなかでも手間のかかるもの。その工程を確認してみましょう。
《シャンパーニュの製造工程》
1.ベース・ワインづくり(第一次発酵)
素材となる白ワインを造る。
2.ブレンド(アッサンブラージュ=調合)
複数の品種、畑、収穫年のベース・ワインをブレンドする。品質の安定化を図ると同時に、各メゾン(生産者)独自の味わいをデザインする重要な工程。
3.瓶詰め・リキュール添加
ブレンドされたワインを瓶詰めし、糖分と酵母の混合液を加えて王冠で栓をする。
4.瓶内二次発酵~熟成
酵母が糖分を二酸化炭素とアルコールへと分解する。この二酸化炭素がシャンパーニュの泡となる。発酵後は、最低15か月間熟成され、複雑な香りや旨味がうまれる。
5.動瓶(ルミュアージュ)
二次発酵でワインに加えた酵母がオリとなって沈殿。これを取り除くため、毎日少しずつ瓶を回しながら逆さまに立てていき、オリを瓶の口の方へと集める。
6.オリ抜き(デコルジュマン)
瓶の口に集まったオリの部分を、-20~25℃の塩化カルシウムにつけて一気に凍らせる。その後、王冠を取ると凍ったオリだけが勢い良く飛び出し、取り除かれる。
7.補酒(ドザージュ)
オリ抜きによって目減りした分を補うため、ワインに糖分をプラスしたリキュール(門出のリキュール=リキュール・デクスペディション)を添加する。この時の糖分添加量によって、甘口辛口が決定する。
8.打栓
コルクで再度栓をして完成。ラベルを貼り、出荷される。
「門出のリキュール」という名前は、ドザージュが出荷の直前に行われる工程であり、出荷を門出に見立てたことが由来とか。長い歴史を経て受け継がれたシャンパーニュの製法は、複雑で手間のかかるもの。大切に育てたシャンパーニュの出荷を、家を後にして新たな旅立ちに出ることに例えたのですね。
シャンパーニュの新潮流!極辛口「ノン・ドザージュ」

最近では、フランス料理も重いソースを使うよりも、素材重視の軽やかさがトレンド。合わせるアルコールも、スッキリとした辛口が好まれます。どんな料理にも合わせやすいことも、辛口が人気の理由。糖質を気にするヘルシー志向や、温暖化によってぶどうの酸味が減少傾向にあることも、甘味が加わるドザージュを行わない一因のようです。
このような背景から、近年、ワインに糖分を添加しない「ノン・ドザージュ」のシャンパーニュが増加傾向にあります。「ブリュット・ナチュール」「パ・ドゼ」「ドザージュ・ゼロ」などと呼ばれ、ドライでシャープな飲み口の、今までにない味わいが注目されているのです。
贈り物にふさわしいのは?シャンパーニュの「甘辛表示」を読み解く

《シャンパーニュの甘辛表示》
◆3g/L以下(ドザージュなしの極辛口)
Brut Nature(ブリュット・ナチュール)
Pas Dose(パ・ドゼ)
Dosage Zero(ドザージュ・ゼロ)
◆6g/L以下(極辛口)
Extra Brut(エクストラ・ブリュット)
◆15g/L以下(辛口)
Brut(ブリュット)
◆12~20g/L以下(中辛口)
Extra Dry(エクストラ・ドライ)
◆17~35g/L以下(中甘口)
Sec(セック)
◆33~50g/L以下(甘口)
Demi Sec(ドゥミ・セック)
◆50g/L以上(極甘口)
Doux(ドゥー)
ドザージュは、作り手がシャンパーニュに手を加えられる最後の工程。そのため、どのメゾンでも独自の工夫を行い大切にしてきました。
オーク樽で熟成したり、選りすぐりのヴィンテージのワインをドザージュ用に保管するなど、質の高い「門出のリキュール」は、シャンパーニュの味わいを特別なものにしてきたのです。
一方、「ノン・ドザージュ」でつくられるシャンパーニュは、ぶどう本来の味わいが魅力。ぶどうそのもののポテンシャルの高さが重要になってきます。そのため「ノン・ドザージュ」のワインは、メゾンにとってかなりの自信作といえるのです。
「ノン・ドザージュ」という選択肢が加わったシャンパーニュ。
この春、新たな門出のお祝いにシャンパーニュを贈るなら。やはり、作り手の思いも込められた「門出のリキュール」入りを選びたいですね。注目の「ノン・ドザージュ」のシャンパーニュは、自分へのご褒美にいかがでしょうか。
参考文献
君嶋哲至 『ワイン完全ガイド』池田書店 2009