『キンキーブーツ(Kinky Boots)』は、シンディ・ローパーが作詞作曲を担当したことでも話題になったミュージカルで、実話を基にした映画(2005年公開)から制作されました。2012年10月、シカゴにあるバンク・オブ・アメリカ劇場で初演、2013年にブロードウエイに進出、日本での初演は2016年です。小池徹平さんと2020年7月に急逝した三浦春馬さんのW主演で開幕した舞台は全公演が即日完売、主要キャストが続投した2019年の再演も全45公演満席で、連日スタンディングオべーションが続きました。
あらすじは、イギリスの田舎町ノーサンプトンにある倒産目前の老舗靴工場「プライス&サン」を継ぐことになった4代目社長チャーリー(小池さん)が、ロンドンで出会った美しいドラァグクイーン、ローラ(三浦さん)のリクエストで、女装した大きな男性が履いても壊れない「Kinky Boots(セクシーなブーツ)」を作ることを決意します。Kinkyとは「ねじれた」「変わった」「性的に倒錯した」といった意味があります。チャーリーはローラと共にブーツの試作を重ね、保守的な工場の従業員の反発や困難を乗り越え、ついにミラノの品評会で成功を収めます。
この作品のメッセージは、「自分自身を受け入れる」「他人もあるがままに受け入れる」。工場を継ぐのが嫌で、靴作りへの情熱も持っていなかったチャーリー。ドラァグクイーンに偏見はないつもりでも、つい人目を気にする自分にも気付きます。華やかで強気に見えるローラも、ドラァグクイーンの装いは自分のナイーブさを守るための鎧だったことがわかります。ふたりとも、父親やまわりの期待に応えようとして傷ついた過去がありました。チャーリーはローラとの出会いを通じて、お互いを受け入れて、見方を変えると違う世界が開けることに気付いていくのです。
キンキーブーツの最後を飾る曲『JUST BE〜ただなりなさい〜』のなかで、チャーリーが「プライス&サンの成功の秘密をお教えしようと思います」と観客に語りかけます。それにローラが応え、なりたい自分になるための「6ステップ」を工場のメンバー全員が歌で伝えるフィナーレで幕がおります。
★キンキーブーツの「6ステップ」
1. Pursue the truth
真実を追いかける
2. Learn something new
新しいことを学ぶ
3. Accept yourself and you’ll accept others too
自分を受け入れ、他人も受け入れる
4. Let love shine
愛を輝かせる
5. Let pride be your guide
プライドを掲げる
6. You change the world when you change your mind
自分が変われば世界も変わる
三浦春馬さんが演じたローラは、その美しさ、歌とダンスパフォーマンスに加えて、内面から表現される優しさと強さが「6ステップ」を見事に体現していました。自分を信じて、自分の人生を歩きたい。『キンキーブーツ』には、そう願うすべての人の心に響くメッセージがあります。そして、自分を受け入れたように、他人を受け入れることの大切さも伝えてくれるのです。
・参考文献
森山至貴『LGBTを読みとく』ちくま新書
「Kinky Boots」ORIGINAL JAPAN CAST【ライブ録音盤】CD ライナーノーツ
・参考サイト
アメリカン・ビュー(アメリカ大使館公式マガジン)GQJapan